気候変動の最前線にある島国モルディブの訴え

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英国グラスゴーのCOP26に元モルディブ大統領のモハメド・ナシードが出席しています。10年以上前になるコペンハーゲンのCOP15サミットで「モルディブを救ってください。」と訴えたナシード大統領ですが、今年のメッセージは「モルディブを救うのではなく、自分たち自身を救いなさい。」に変わっています。

コペンハーゲンでのCOP15

我々は何もしていない。

でもこのまま何もしなかったら、私たちの国は消えてなくなり、私たちは死んでしまう。

我々を救ってください。

2009年にコペンハーゲンで行われたCOP15で、モルディブ共和国のモハメド・ナシード大統領は国が水没の危機にあると訴えました。

「私たちが今、モルディブを救えないのなら、未来の東京、ニューヨーク、香港を救うこともできません。」とも。

モルディブ共和国の大統領がこのように気候変動問題について世界の国々に訴えなければならなかった理由は、その地理的条件にあります。

https://globalpea.com/cop26

モルディブ共和国

モルディブ共和国はインド洋に浮かぶ大小約1,200の島からなる国。全島合わせて国土面積約300平方キロメートルの80%が海抜1.5メートルに位置します。

このような地理的条件のせいで、国土が気候変動による海面上昇や津波などの自然災害に脆弱で、島々が完全に消滅するリスクが現実のものとなっています。

モルディブの人々が2000年以上住んできた島々のいくつかは、すでに浸食によって人が住めなくなってしまいました。温暖化がこのまま進めば、今後数十年の間にモルディブが海に沈む可能性があるのです。

モルディブ政府は海面上昇から国土や国民を守るために様々な対策に取り組んできました。例えば地下水の保全や雨水の利用推進、海岸浸食対策、防波堤建設、インフラ施設の嵩上げ工事などです。最も脆弱な島々の住民たちはすでに対策が進んでいる島々に移住しています。

モルディブのカーボン・ニュートラル

30年間独裁政治が続いたモルディブで2008年に民主主義が実現し、初めての大統領に選ばれたナシード大統領は就任直後からずっと気候変動問題に取り組んでいます。

2009年コペンハーゲンでのCOP15で各国に行動を促すスピーチをする前にはモルディブの閣僚会議を海中で行うという試みもして、その様子が世界中に報道されて話題を呼びました。

この時、モルディブは世界で初めて2020年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を発表しました。イギリスの専門家のアドバイスに基づいて作り上げた脱炭素化戦略は、風力や太陽光、バイオマス発電で国内の全電力をまかなうというものでした。

モルディブの温暖化ガス排出量は世界全体の0.01%にしか過ぎませんが、それでも率先してお手本を見せることで主要排出国にも努力を促すためでもあります。

気候危機を起こしたのは先進国であり、それらの富裕国がリーダーシップを示すべきなのは当然ですが、途上国も含めすべての国が取り組まなくてはならない問題だとナシードは言います。なぜならこれからの排出量の増加の多くは途上国からもたらされるものとなるからです。

気候変動に弱い諸国のフォーラム

ナシード大統領はマルディブのように気候変動の影響を強く受ける途上国が協力して気候変動対策を進めるための組織づくりもしました。

2009年、モルディブの首都マーレにバングラデシュ、コスタリカ、フィリピン、エチオピアなど11か国の代表を集めてできたのが「Climate Vulnerable Forum(気候変動脆弱国フォーラム)」。

これらは気候変動を起こすような活動はほとんどしていないのに、温暖化の影響を顕著に受ける脆弱な国々です。そのような国々が協力して気候変動問題対策に取り組み、先進国へも働きかけようというフォーラムには次々と参加希望国が集まって20か国になり「V20」とも呼ばれていました。

その後さらに参加国は増えて、今では、アフガニスタンやベトナム、ガーナ、タンザニア、ツバル、マーシャル諸島などアジア、アフリカ、ラテンアメリカの48か国が加盟しています。

「気候変動脆弱国フォーラム」は気候変動が環境問題であると同時に人権の問題であり、安全保障の問題でもあることを訴えています。

気候変動による災害は地域全体を不安定にし、内紛や過激主義をもたらす恐れがあります。また、貧しい国々に住む人々の基本的人権を脅かし、多数の人々が亡くなったり、住む場所を追われて難民となる結果にもなり得ます。

気候変動に適応するためには費用がかかり、その資金を途上国はまかなえません。インフラ設置や技術・能力開発、リスク回避などのための国際的な援助の枠組みも必要であると先進国に訴えています。

遠い島国だけの問題ではない

ナシードは言います。

「欧米先進国の人々は、私たちの訴えを聞いて『遠い小さな島国の問題だ、かわいそうだが仕方ない。』と言って何もしてきませんでした。

でも、実際はそうではありません。

10年前『モルディブに起こっていることがいつかは他の国でも起こるでしょう。』と言いましたが、それがすでに現実になっています。

ヨーロッパで洪水が起き、米国で山火事が起きているのです。あなたの目の前で人が死んでいます。

モルディブがなくなるのではない、フランス、イギリス、米国がなくなるのです。

今の生活スタイルを続けていたら、何もかもなくしてしまうということに気が付かないなんてばかげています。」

ナシードの願い

大統領をつとめたナシードですが、政情が不安定なモルディブでクーデターの後刑務所に入れらりたり、テロリストに狙われ爆発事故で重体となるなど、波乱万丈の経験をしてきました。爆弾で大けがをしたものの死を免れたのは、その理由があるのだろうと、気候変動問題に一生取り組む覚悟をさらに強めたようです。

これまでも「刑務所に入れられてない限りは」COPにも出席してきたというナシード、今年はモルディブ国会議長としてCOP26に出席しています。

ナシードがCOP26で期待することは:

  • 気温上昇を2度ではなく1.5度以内に抑えるという目標を明記する
  • NDCを5年ごとではなく毎年更新を義務付ける
  • 各国の脱炭素化に向けた計画を明らかにする
  • 先進国は1000億ドルの資金援助の約束を遂行する

この期待が応えられるのでしょうか。

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