日本では東京五輪たけなわ。イギリスでも時々オリンピックのニュースが流れていますが、スポーツ好きな人以外ではそれほど大きな話題にはなっていないようです。そんな中、最近BBCが取り上げたのが「東京のホームレスの隠れた姿」という話題で、東京五輪のかげで路上生活者たちが行き場を失っているというものです。
東京五輪とホームレス
東京五輪が決まった2013年以降、五輪会場周辺などで生活しているホームレスの人々を当局は厳しく取り締まってきたとBBCは伝えています。日本政府や東京五輪当局は外国メディア、海外の五輪関係者や訪問客に日本のいいところだけ見せたいと望んでいて、目につく場所にホームレスがいたら困るからというのが理由とのこと。
公園には、ホームレスが寝ないように夜間照明がつくようになったり、夜は入れないように閉鎖されるようになりました。国立競技場の周辺はフェンスで覆われ、そこで生活していたホームレスに立ち退きを強制されました。テントや身の回りの荷物も強制排除でみんな持って行かれたと。
駅の近くにあったテントもすべて撤去されました。そこに暮らしていたホームレスたちは行き場を失って、橋の下などに避難していますが、そこからも追い出され、あちこちを転々としているということです。
中には当局に「五輪の期間中だけ隠れてください」と言われた人もいるそうですが、日本政府やIOCは「東京五輪のためにホームレスを強制排除することはない」「ホームレスについてはシェルターに移動させようとしている」という答えています。
けれども、用意されているホームレスシェルターというのは、狭い部屋に2段ベッドが3,4つ詰め込まれている状態だそうです。コロナワクチンを受けてないホームレスたちの中には、路上で寝るほうが安全だと考えている人もいます。
オリンピックとホームレス
ホームレスが問題になったのは何も東京五輪だけではありません。過去のオリンピックでもたびたび問題になってきました。
1996年のアトランタ大会では1万人以上のホームレスが逮捕され、国際的にも注目されました。アトランタは路上生活を禁止する条例を制定してホームレスを法律で取り締まったり、バスの片道チケットを握らせて市外へ追いやったりということを公然と行ったのです。
このことが問題視され、その後のシドニーやロンドンでは五輪を開催することによってホームレスを排除するのではなく、大会をきっかけにその人たちの暮らしを改善しようとする試みが見られました。
2000年のシドニー大会では民間の団体が立ち上がり、ホームレスプロジェクトに取り組みました。アトランタで起こったようなホームレス排除を繰り返してはならないと、政府や自治体と協力して路上生活者が公共空間にいる権利を尊重する政策を進めました。
2012年のロンドン大会では、政府や自治体がホームレスチャリティー団体と協力して、路上で生活する人々に住宅をあっせんするなどして大規模な支援プログラムを行いました。けれども、五輪のための再開発を行う必要から退去が必要になって、新たにホームレスが出たケースもあったそうです。
このほかにも、2008年の北京大会では市内の住居から150万人が立ち退きを強制されたし、2016年のリオ大会では五輪開催のためホームレス強制排除が行われました。
イギリスのホームレス問題
ホームレスは各国が頭を悩ませている問題です。
ただシェルターを与えればいいということではなく、経済的な支援を提供したり、心身の健康状態、特に一見わかりにくいメンタルヘルスや認知症などの治療が必要かどうかを判断して適切なサポートをしたり、社会生活復帰や訓練・就職あっせんサービスなども総合的にプログラムに組み入れないと、短期的にシェルターなどに保護された人々がまた元の路上生活に戻ってしまうこともあります。
イギリスでもロンドンなどの都市部でホームレス問題は深刻です。グレイター・マンチェスターではバーナム市長が就任以来ずっと市長報酬(11万ポンド=約1700万円)の15%をホームレス・チャリティーに寄付し続けてこの問題に取り組んでいます。
それ以来、マンチェスターのホームレスの数は激減しました。今は路上生活者が出ないようにそのもととなる原因をなくす取り組みをしています。
特にコロナ禍では、住所を持たないホームレスの人々にコロナワクチンがいきわたるのかも心配されています。
イギリスでは2020年12月から医療従事者や重症リスクが高い高齢者を優先的にワクチン接種が始まりましたが、ホームレスの人々も優先的に対象となるよう2021年の早い段階でホームレスワクチン接種プログラムが始まりました。ホームレス支援団体や自治体がNHS国民医療サービスと協力して、シェルターやドロップインクリニックで、予約なしのワクチン接種を行っています。
東京五輪が終わったら、今「隠れて」いるホームレスたちはまた戻って来るでしょうか。デルタ株が猛威を振るっている日本で、ワクチン接種がその人たちにいきわたるでしょうか。もし、コロナに感染してしまったり、そのほかの病気で体調を崩すようなことがあったら、その人たちは治療を受けることができるでしょうか。
そのような時に、その人たちに手を差し伸べることができるような社会であってほしいと願います。
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