『コロナが少子化に拍車をかける?』で、日本にとって大きな課題である少子化が新型コロナウィルスの流行によってさらに進みつつあるという話をしました。それに関連して女性と少子化、地方創生についてお話しします。
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少子化と地方創生
少子化や過疎化、人口減少については、コロナ以前から課題とされてきており、特に地方でこの問題に取り組んでいる自治体は少なくなく、グローバルリサーチでもこのテーマについて『少子化と地方創生』という講座を用意していますし、このテーマについて講演やコース提供などを依頼されることもあります。
日本の場合、少子化が地方創生とも大きく関係します。国全体の少子化の大きな原因は若い女性が地方から都会に出ていくことだからです。逆に言えば、地方から若い女性が出ていかなければ、または戻ってきたり、外から移住してくれば、この問題は解決する可能性が高いのです。
なので、少子化解決の問題は女性の問題抜きでは語ることができません。それで、少子化の問題についてお話すると、その続きのような形で女性の問題について講演や講座を続けて依頼されるということもありました。
女性と地方創生
とはいえ、少子化や地方創生と女性の問題に関係があると言ってもピンとこない人もいるようです。また、少子化や地方創生の問題だけ解決したいのであって、女性の活躍とか新しい生き方などということは重要ではないし、女性は今のままで十分幸せなのだから余計なことをしなくてもいいと思う人もいます。
昨今は若い女性が華やかな都会で結婚もせずに仕事したり遊んだりして楽しんでいるのが少子化の原因なのであって、若い女性には早く結婚して子供を2,3人産んで、家庭を大事にしてもらわないと困るという人も。
私も日本の保守的な地方に生まれ育った女性なので、そういう考え方があることは理解できます。けれどもそういう考えを持っている人がいる限り、日本の少子化は進んでいくだろうと想像できるし、いくら地方創生をお題に掲げていろいろな取り組みをしてもうまくいかないだろうと思います。
教育も才能もある人口の半分がその可能性を生かされず、無償ケア労働をおしつけられている地域や国に未来はあるでしょうか。
コロナ対策も女性問題
少子化だけではありません。外から日本を見ていると、今の日本社会の様々な問題は、中高年男性が意思決定者となってできてきた流動性のないシステムがその起因になっているという気がします。
地方創生や少子化対策がうまくいかないのも、働き方改革やデジタル化、労働生産性の向上が進まないのも、政策決定が不透明で国民にコミュニケーションが取れないのも、国民が政府や政治に対して信頼を持つことができないのも、若者が将来に対して希望を持てないのも。
今、世界に共通する未曽有の大問題ともいえるコロナ対策で各国のリーダーシップの在り方が浮き彫りになっています。トランプやボルソナロなど女性蔑視の傾向があるリーダーが率いる国の対策が失敗し、ニュージーランドやフィンランドなど女性リーダーがトップに立つ国ではうまくいっているということは何かを象徴しているようです。
女性が大統領や首相だからコロナ対策がうまくいくということを言っているのではありません。女性をリーダーに選ぶような国や国民だから、民主主義が機能し、様々な政策について一番賢明な方法を模索し選択し決定する素地があるのではないかということです。
日本もダイアモンドプリンセス船感染流行のあとは、コロナによる被害が欧米諸国と比べると格段に低く、うまくいっているように見えました。けれどもその政策について国民の理解や支持があったようには見えません。
国民にも対外的にも戦略的なコロナ政策について科学的なエヴィデンスに基づいて伝えるということができておらず、ただ運がよかっただけにも見えます。
イギリスでも、韓国や台湾、ニュージーランドのコロナ対策については成功事例として紹介されていましたが、日本のことについては「検査をあまりしていないので実態がよくわかっていない」という見解が多かったのです。
この結果、日本ではコロナ対策に対する国民の支持も、東京五輪を開催するホスト国としての国際的な信頼も取り付けていないように見えます。
女性蔑視発言と海外の関心
Tokyo Olympics chief Yoshiro Mori ‘sorry’ for sexism row https://t.co/rwyF6p9CjI
— BBC News (World) (@BBCWorld) February 4, 2021
今年の2月、東京五輪委員会の森会長(元首相)が「女性が多い会議は時間がかかる」と言った発言が問題になり、辞任する事態になりました。この件はイギリスに住む私にも複数の英語メディアで入ってくるほど、国外でも話題になっていました。
この件に関しては森会長が辞任することで幕を引いたようにも見えますが、これは森会長個人の失言問題ではありません。あのような立場の人が何の悪気もなく公の場であのような発言をした、そのことを自然に思っていたということが問題なので、本人が辞任するだけで解決することではありません。
森発言だけでなく、少し前では熊本市議会の子連れ議会騒動、KuToo運動、入試差別の件など、日本の男女差別や女性蔑視を問題視する報道は英語圏のメディアでも目にすることが少なくありません。
Tokyo medical school ‘changed test scores to keep women out’ #Japan #globalhealth https://t.co/s8QWcfBwOh
— Robert Marten (@MartenRobert) August 2, 2018
日本国内の問題なのであって、自国には関係ないのだからわざわざ報道するようなニュースではないだろうし、余計なお世話のようで、難癖つけて日本の国の悪口を言いたいのかとも思えますが、そうではないようです。
これは、外から見てあまりにひどい日本の女性差別に黙っておけず、日本社会を改善してもらいたいという外国メディアの親切心の表れだと思います。
日本のような民主主義の先進国家で、G7に入っているような大国で、信頼できる国民が多いところで、なぜか女性問題に関しては他国と比べて遅れていることを純粋に心配してくれているのです。
ジェンダー格差
世界経済フォーラム(WEF)が発表する世界のジェンダー格差指数で、日本は2021年度、世界で156か国中120位となっています。昨年の121位から1ランク上げてはいますが、G7では最下位で(ドイツ11位、フランス16位、イギリス23位)隣国の韓国102位、中国107位よりも遅れています。
この指数は女性の地位に関して「政治」「経済」「教育」「健康」の分野で分析しています。日本は教育と健康分野では高いランクを誇っていますが、政治分野が特に、それから経済分野もかなり遅れています。
昔に比べて男女の差はなくなったという人もいますが、男女平等化のペースは日本では後れを取っていて、他国についていけていません。日本とイギリスに身を置いた私の感覚でも、男女問題に関しては日本はイギリスの30年前と同じくらいかなという印象です。
言い換えれば、他国も昔は日本のように男女格差が大きい国が多かったのです。それが、様々な運動や改革を経てかなり早いペースで変わってきているということです。これは私もイギリスに長く住んでいて感じていることです。たまに日本に帰ると、昔と全然変わっていない印象を受けます。
欧米諸国や新興国、開発途上国でも男女格差の解消については様々な取り組みがなされてきました。
具体的には法改正、ジェンダー教育やトレーニング、メディアや広告業界の改正、パリテ、クオータ性、30%クラブ、50:50政策など様々な施策が導入されることで、ここ数十年で見違えるほど変わった国も多いのです。
昨今は日本でも「SDGs」を大きく掲げるところも多いのですが、ジェンダー平等についての目標はあまり大きく取り上げられないように思います。
ジェンダー平等はみんなのため
女性差別撤廃とかジェンダー平等の話をすると、内心、自らの特権が奪われるのではないかと心配する男性もいるようです。けれども、男性と同じ権利を女性に与えたり、女性を職場などで積極的に登用することは女性にだけ恩恵があるわけではありません。
多様性のある視点が政策決定に反映されることで、弊害の多い旧態依然としたやり方を改革したり、思い込みやアンバランスな状況判断によるリスクを減らすことができます。人材不足も心配される中、高い教育を受けた女性を家庭に閉じ込めておくのはもったいないし、生産性もあがりません。
特に、地域に根差す仕事をする職場にとって、働く場所と家庭だけでなく、その外や間にある地域社会に実際に参加している人の視点があるのは重要です。
働き方についても、生活意識に基づき、ケア義務がある人でも無理せずに就業を続けることができる環境を整えることは男女関係なくメリットがあるはずです。
さらに、男性が家庭での育児、家事、介護、地域社会との交流など、これまで主に女性が担ってきた役割をシェアすることで得られるメリットは大きいでしょう。
男女が家庭でも職場でも助け合い、協力しあってそれぞれが能力を生かせる環境を整えることが、職場や社会を改善することになり、女性が安心して子供を産もうと思える素地になるはずです。
女性が、みんなが幸せになる地方に
日本では「地方創生」「女性活躍」「少子化是正」などの問題にかなり取り組んできましたが、なかなか成果があがっていません。これらの問題は国全体ですぐに解決することは難しいし、社会に根強く残る意識や慣習を一夜にして変えることはできません。
けれども、地域レベルでは比較的簡単に早く解決策を導入することができます。
地方自治体なら、自治体職員や議員の働き方を見直し、ワークライフバランス政策を取り入れたり、議員や職員、特に役職レベルでの男女の比率をモニターし続けてバランス向上を図ったり、女性を管理職に登用する機会を増やしたり、研修を行ったり、そのような取り組みについて公表して地元の民間企業を啓蒙したり。
「うちの田舎は保守的だから無理だ」としり込みをする人も多いのですが、制度を変えることによって意識も変わっていくものです。変えられるところから変えていって先行事例を作れば先進的な地域として内外にも評価されるようになるでしょうし、女性にとって住みやすい、働きやすいところとして意識されていくようになるでしょう。
取り立てて自慢できる観光名所や特産品がないという地方でも、地元民が男女問わず幸せに暮らせ働け、仕事をしながらでも安心して子供を育てることのできる街にできたら、それが一番の街の宝になるのではないでしょうか。