イギリスのグリーン・ベルト Green Beltは都市計画の手法

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Green

イギリスにおけるグリーン・ベルトは都市計画の手法の一つで、都市の無秩序な拡張(アーバン・スプロール)を阻止する目的で指定された地域です。グリーン・ベルトは1930年代にロンドンに導入され、その後マンチェスター、バーミンガムなど15か所が指定されており、イングランド全土の13%を占めています。

グリーン・ベルトの歴史

グリーン・ベルトのアイディアは19世紀末にエベネザー・ハワードが提唱したガーデン・シティから端を発しています。ハワードは都心部と郊外の衛星都市群の間にグリーン・ベルトと呼ばれる緑地帯を設けることを提案しました。

当時、ロンドンをはじめとする大都市では、都市化による過密やスラムなどの都市問題が起こっていて、これ以上都市が無秩序に広がることを阻止するためにグリーン・ベルトを作ることが検討されました。

1930年代にはロンドンにグリーン・ベルトを導入する計画が提案され、1938年ロンドングリーンベルト法が制定されました。1944年度のアバークロンビーによる大ロンドン計画(The Greater London Plan)にも10㎞幅のグリーン・ベルトが含まれています。

ロンドンのグリーン・ベルトは1955年以降さらに広がり、広いところでは56キロに及びます。現在ロンドンのグリーン・ベルトは516,000ヘクタールですから、ロンドンの大きさの約3倍という計算になります。

ロンドン以外にもグリーン・ベルトを導入するために、1947年都市田園計画法が作られました。この法律はイングランドの地方自治体がそのディヴィロプメント・プランにグリーン・ベルトを導入する権限を与えました。

これによって、ロンドン以外の地域でもグリーン・ベルトの導入を検討するところが出てきたのです。

イングランドのグリーン・ベルト

Green Belt

イングランドのグリーン・ベルト

現在、イングランドでグリーン・ベルトに指定されている地域はロンドン他マンチェスター、ヨークシャーなど15か所あります。その面積は2017年3月時点、トータルで1,634,700ヘクタールに及びます。これはイングランド全土の13%に当たります。

マンチェスター、バーミンガムなどの大都市のアーバンスプロールを防ぐために作られたものもありますが、もっと小さいヨークやケンブリッジなどといった街の周りにも指定されています。面積として一番大きいのはロンドンで486,000ヘクタール、一方、一番小さいバートン・オン・トレントのグリーン・ベルトは700ヘクタールと大きさもさまざまです。

なお、イングランド以外では、ウエールズに1か所、スコットランドに7か所、北アイルランドに30か所グリーン・ベルトがあります。これらの地域はイングランドとは別の管轄となり、それぞれの地域のポリシーによって制定されています。

イングランドのグリーン・ベルトの面積は2016年3月31日から2017年3月31日までの1年間で790ヘクタールの減少となっています。これは8つの地方自治体が新しいディヴィロプメント・プランを導入する際にグリーン・ベルトとして指定されている地域の境界線を変更した結果、グリーン・ベルトとして指定されているエリアを減少させたからです。

イギリス政府のグリーン・ベルト政策

イングランド政府が掲げているグリーン・ベルトの目的は次の通りです。

  • 大都市部において無秩序なアーバンスプロールを防ぐため
  • 近郊の町が一つになるのを避けるため
  • 田園地帯を開発から保護するため
  • 歴史的な街の環境や特別な性格を守るため
  • 都市にある土地や荒廃地の再利用を促進して都市再開発を促すため

都市は都市、田園地帯は田園地帯としてそれぞれの特色を守ることも大切ですが、これまで開発されずに保護されてきた自然を破壊するよりは、すでに開発されているが使用されていない土地(brownfield landと呼ばれる)に開発を誘導するという目的もあるのです。

イギリスの森林面積は全土の12%しかありません。日本と違って地形が平らなイングランドでは、自然が残る田園地帯を開発することは比較的容易です。

都市部にある、使用されないまま放置されている荒廃地などを開発するより、安上がりで簡単にできてしまうことから、ディヴィロパーや住宅建設会社にとってはグリーン・ベルトは魅力的にうつるのです。

国民はグリーン・ベルトを支持しているのか

イギリス人はことのほか自然を大切にする国民なので、都会に住む人でも週末に出かけることのできる「田舎」が目と鼻の先にあるということは実に重要なことです。

そんな国民性なので、グリーン・ベルトはイギリス人に圧倒的に支持されてきました。戦後の都市計画政策の中で、グリーン・ベルトほど国民に圧倒的な支持を得ているポリシーはないのではないかと思うほどです。

イギリスにはほかにもNational Park(国定公園)とかArea of Outstanding Natural Beauty(自然美観地域)など、自然保護の目的で指定されている地域があります。また、地方自治体レベルでもディヴィロプメント・プランに保護されるべき緑地地域が指定されてもいます。

それに、イギリスでは一つ一つの開発において注意深く検討や民間への諮問がなされ、無秩序に自然を破壊する開発が起きるということはほとんどありません。

それでもそういったほかの制度に比べ、グリーン・ベルトというのはシンプルで分かりやすい制度なので国民の圧倒的な支持を得ているのでしょう。

グリーン・ベルトにおける開発と課題

そんなグリーン・ベルトですが、いつまでも安泰というわけではないかもしれません。グリーン・ベルト内での開発は原則としては認められていませんが、じわじわと住宅の新築などが許可されるケースが多くなっているのです。イングランドでグリーン・ベルト内に開発を許可された住宅は2009-10年に2,258戸だったのが、2014-15年には11,977戸に増えています。

昨今ロンドンでは住宅費の高騰が続いており、ロンドン住民は悲鳴を上げています。普通の収入しかない人にとって持ち家は高値の花、フラット(マンション)さえ高価すぎて手に入らない有様です。

これは、ロンドン及びロンドンに通勤できる地域の住宅が不足しているからで、このためにもっと家を建てるべきだという声があちこちから上がっています。そのためには、厳しすぎるグリーン・ベルト政策を見直すべきだという声も。ロンドン市内では地価高騰のため、とても普通の人が払えるような値段で家を建てることができません。新築住宅のコストの70%は土地代なのですから。

イギリスでは年間250,000戸の住宅が不足していると言われていて、このうちのいくつかはグリーン・ベルト内に建てるしかないのではないかと言われています。実際、グリーン・ベルト指定地域内に予定されている住宅の個数は362,346戸あると言われています。

グリーン・ベルトを断固として守るのか、イギリス人にとっては「城」といわれる家を提供することがもっと大切なのか、政治家も国民も拮抗する大問題をかかえて頭をかかえているようです。

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