イギリスでかつて人気を博したビーチリゾートの数々は今では衰退の一途をたどっているところがほとんどです。そんな街の一つであるブラックプールでは一般観光客の中からニッチなマーケットに的を絞って訪問客を呼び込んできました。そのユニークな取り組み例を紹介します。
ブラックプール Blackpool
ブラックプールはイングランド北西部にある、人口約14万ほどの街です。かつては人気を博した行楽地があり、ブラックプール・タワー、社交ダンスホール、遊園地、ゲームセンター、ピア(桟橋)などを目指してたくさんの訪問者が訪れていたイギリス屈指のシーサイドリゾート。
地域経済はおもに観光とレジャー産業、それに付随するホテルや飲食店などのサービス業に支えられていました。しかし近年は訪問者が減り、往時の活況がすっかりなりをひそめているのはイギリスの他のビーチリゾートと同様です。訪問客は1992年に1700万人だったのが2000年には1000万人に減っており、地域経済に暗い影を落としていました。
ブラックプールの課題
観光に頼っていた街にとって訪問客の激減は地域経済を直撃し、失業、貧困、事業収入の減少、企業倒産、地方自治体の税収減少などの問題を引き起こします。
さらに地域経済の衰退によって、それに付随する様々な問題も起きるようになっています。
ブラックプールでは、かつてB&Bだった建物が家賃の安いアパートに改造され、そこに貧困層や定職を持たない住民が移り住むようになってきました。アルコール、ドラッグ、喫煙、精神疾患、犯罪などの問題も顕著です。ブラックプールの平均寿命は短く、イングランドで一番不健康な街と言う不名誉な記録さえ持っているのです。
ニッチ・マーケット観光による地域活性化
そんなブラックプールの観光地としての魅力を取り戻し、住民にとってもより住みやすい街にするためにさまざまな取り組みがなされてきました。従来のシーサイドリゾートや海外の観光地にはないブラックプールならではのユニークな魅力に焦点を当てることにより、ニッチなマーケットでの集客に成功しているのです。
ダンス・エンターテイメント
そのひとつの例は、かねてからさかんだったダンス・エンターテイメントの充実と国内外へのマーケティングです。ブラックプールは「社交ダンスの聖地」としてダンスファンが集まるところ。タワー・ボールルーム(舞踏場)は地元の人や滞在客のために毎日開かれるし、ダンス大会や有名テレビ番組、映画の撮影に使われます。
ウィンターガーデンズは毎年初夏に開催される社交ダンスの国際競技大会ブラックプール・ダンスフェスティバルの会場になってきました。この大会には世界中かダンサーだけでなく、その関係者やファンが詰めかけ、街は活気を取り戻すのです。
ダンス・エンターテイメント会での国際的な知名度を利用して、ブラックプールではダンス業界へのマーケティングに力を入れ、ダンス関係のイベントを催しています。さらに、老朽化が進んでいたウィンターガーデンズを修復しイメージ復元にも力を入れています。
LGBTマーケット
ブラックプールは「北のゲイ・キャピタル」と呼ばれており、ゲイ・コミュニティが好んで訪問する街として知られてきました。ここには広くLGBTコミュニティーを対象にしたパブ、ナイトクラブ、ブティックなどのお店がたくさんあります。また、レインボー・フラッグを掲げたB&Bなどの宿泊施設も多く目に入ります。
イギリスではゲイ・コミュニティから得られる経済利益「ピンク・パウンド」は大きいものです。それに目を付けたブラックプールでは、LGBTに対してまだ偏見が強かった1980年代からすでにゲイカルチャーを歓迎する方針を打ち出していました。LGBTの人達にとって偏見がなく安全な場所であるという印象を与えることに注意をはらってもいます。
このような方針が功を奏して、ブラックプールには年間を通してLGBTコミュニティの人々がやってくるようになっており、2006年からはゲイ・プライドのお祭りも行われています。
カンファレンス・マーケット
ブラックプールはビジネスや学術などのカンファレンス(会議)需要にも注力しています。ブラックプールでは労働組合や、保守党大会など知名度が高い大会も毎年行われてきました。けれども近年は従来のカンファレンス施設であったウィンター・ガーデンズの老朽化やトップクラスのホテルがないことなどから需要が減少しつつあったのです。
そのため、ブラックプールではウィンター・ガーデンズに隣接する形で新しくカンファレンス施設を造り、これまでになかった五つ星ホテルを誘致するなどして再びカンファレンス・タウンとしての名誉を挽回しようとしています。
ブラックプールの地域活性化
ブラックプールではほかにも一般観光客を対象にして様々な取り組みをしています。街の印象をよくするために、プロムナードを改修し、ブラックプール・タワーに新しく展望台がオープンするなど、既存の観光スポットにも投資をしているのです。
古くからあるリゾート地であるブラックプールならではの年季の入った遊技場に古いゲームと最新の物が混じっている様子や、昔ながらの建物や看板などが立ち並ぶ街に漂うレトロ感を気に入って訪れる人もいます。このようなブラックプールの魅力を満載にしたミュージアムも開設が予定されています。
さらに、ブラックプールでは様々なフェスティバル、花火大会、エアショー、クリスマスライト・スウィッチオン、ロック・フェスティバルなどのイベントを行い、夏だけでなく年間を通して訪問客が訪れるように努力しています。
1970年以降衰退の一途をたどっていたブラックプールですが、このような取り組みのおかげで、最近はまた人気が盛り返してきています。2016年の旅行者は前年を上回る1800万人以上にのぼっているのです。
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