地域と大学との連携によるまちづくり:イギリスの地域活性化事例(イギリス・オームスカーク)

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Ormskirk

地域において大学などの教育機関の所有地は独立した「王国」のような形で存在することが多く、それは日本でもイギリスも同様です。広大な大学のキャンパスも塀で囲まれ部外者は足を踏み入れることもないのが普通です。しかし、比較的規模が小さい街に隣接する大学は既存の街にかなり影響を与えることになります。大学は街に与える影響についてどのように考えたらいいのでしょうか。ここでは、大学が地域と連携してまちづくり、地域活性化をおこなう可能性について、イギリスの事例を交えてみていきます。

地域における大学の存在

大学のキャンパスはしばしば既存の街から地理的にも社会的、経済的にも独立した存在になることが多く、特に広大なキャンパスにおいてはその敷地内で一つの町のようなコミュニティが出来上がっていることも少なくありません。寮など学生が住むところ、店舗やサービスも整備されたところもありそういうキャンパスでは学生は大学の敷地内で一日のほとんどを過ごすことになります。

けれども、それほど大きくないキャンパスにおいては大学とそこで勉強する学生や働くスタッフが隣接する既存の地域にさまざまな影響を与えることになります。住むところ、買い物したりサービスを受けるところ、レジャーやエンターテイメントを楽しむなどの「消費」を大学のある街で行うことによって「大学町」と呼ばれる学生が多く行き交う界隈が生まれます。学生による消費活動が地域経済に貢献することは大きなメリットとなりますが、逆にそのことによって起きる課題も起きてきます。

大学が地域に与えうる問題

既存の住宅が不足する地域では一人暮らし向けの住居が不足し家賃が高騰したり、夏などの長い休暇期間に居住者が激減して空き巣などの犯罪が起こりやすくなる、学生の出入りが激しく住んでいるところやコミュニティに従属意識がない人が増えるため、住居である建物の手入れが不十分になったり、コミュニティ意識がなくなって社会問題が起こったりもします。

特に短い期間に大学が拡大して急に学生数が増えるような場合、このような問題が顕著になり、近隣の既存の町に昔から住んでいた住民たちと相いれない場合もできてきます。

このような場合、大学が積極的に街づくりに参加することによって得られる効果は無視できません。隣接する地域にとって大学は経済的にも社会的にも重要なパートナーとなり得るのですから、積極的に働きかけて協力を求めるべきでしょう。大学側もまちづくりに協力、参加することによって地域活性化に貢献できるだけでなく、学生に実務に基づいた有益な学習機会を与えることができます。

ここでは実際にイギリスの事例をご紹介します。

地域と大学が連携したまちづくり:オームスカーク(Ormskirk)

オームスカークはイングランド北西部ランカシャーにある人口約24,000人ほどの小さなマーケットタウン。歴史がある街だが、これといった大きな産業もないところです。タウンセンターにはスーパーマーケットや少数のチェーン店、小規模な店舗がありますが、街としての規模が小さくて外から買い物客を惹きつけるには至っていません。条件のいい就職先もあまりない田舎町なので、若者は街を離れていき、残されるのは高齢者ばかりになりがちでした。

隣接するエッジヒル大学の拡大

そんなオームスカークの街が変わってきたのは、郊外にあるエッジヒル大学(Edge Hill University)の拡大によります。エッジヒル大学は小規模のカレッジとして存在していましたが、2006年に大学として生まれ変わってから短期間にキャンパスを拡大しました。

今では、学生数にして約18,000人、スタッフ4,000人を抱えるキャンパスに生まれ変わり、大学が地元経済にもたらす影響も大きくなってきています。

大学の拡大による既存の街への影響

メリット

大学が急速に発展して学生数もスタッフ数も増えたことで小さな田舎町だったオームスカークにとって、経済的な面では様々なメリットが見られます。

学生やスタッフによる住宅需要はキャンパスだけでなくキャンパス外の既存の住宅街にも及び、空き家率が減りました。

大学で教鞭を取ったり経営に携わるポストは地域外から来る人によって賄われることがほとんどですが、専門職でない事務職、サービス、ケータリングなどのポストが増え地元の人の就職口が増えました。

さらに、学生やスタッフが街で買い物をしたりサービスを使うことで地域経済にも大きなメリットがあります。

デメリット

もちろん、大学の拡大によっていいことばかり起きているわけではなく、デメリットもあります。特に、オームスカークの場合はエッジヒル大学が短期間に拡大したことで様々な課題をもっています。従来の静かな田舎町から若者が多い活気ある街に変わろうとしている過渡期にあり、それに付随する問題が出てきているのです。

たとえばこれまで静かだった田舎町に短期間で若者の数が増え、若い学生がパブなどで飲み歩く傾向に苦言を呈する中高年層もいないわけではありません。家族のいる家庭など、街の治安を心配する人もいます。

タウンセンターマネジメントグループ

このような背景のもと、2015年にオームカークのタウンセンターマネジメントグループが設立されました。地方自治体、地元コミュニティー代表、地元のビジネスにエッジヒル大学と学生自治会が参加してできたパートナーシップです。

このグループはオームスカークの街をより活性化し、環境や地域経済を改善しようと、2015-20 タウンセンター・ストラテジーを作りました。このストラテジーではタウンセンターの環境改善のため、マーケット、タウンセンターの建物やパブリックオープンスペース、駐車場などの整備をし、街のマーケティングを行っていくとしています。

ナイトタイムエコノミー

中でも注目に値するのが、ナイトタイム・エコノミーに言及している点です。エッジヒル大学の学生やそこで働く人々がキャンパスにある寮や街にある家などに住むようになり、夜間に遊びに行ったり買い物をしたりするサービスを求める人が増えているため、街では積極的にパブ、バー、レストランやそのほかのサービスを提供するナイトタイムエコノミ―を支援するとしているのです。

けれども既存の住民の中には若者が夜間に飲み歩く傾向に苦言を呈する人もいます。そのため、CCTVや警察のパトロール、コミュニティーサポートオフィサーなどが協力してオームスカークの街が夜間も魅力的かつ安全に感じられるよう務めることにしています。

大学生による街づくりへの参加

このようなタウンセンターグループに大学が代表として参加している例はあまりおみられません。オームスカークのような小さな街でタウンセンターストラテジーを作り実行していく際に大学や学生の代表が参加することは意義あることと言えます。

大学が実際に現場に入り地域に信頼される関係を築くことで地域のネットワークが広がるからです。また街にとって、既存の住民にない「若者」「よそもの」からの視点を提供してもらえるのも大きなメリットでしょう。

さらに、教育的観念からも学生にも大きなメリットがあります。大学生が地域に密着し活動を進めることで地域への貢献ができ、実践的な教育になるからです。まちづくりを通して地域の歴史や文化を学び、地元コミュニティと密接にかかわるチャンスを得ることができます。アカデミックな机上の学習では得られない実務的な経験は学生時代には貴重なものでしょう。

Ormskirk

 

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