新築一戸建て願望の終焉?─姪の住宅選びから見えた、これからの住まい方

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イギリスから日本に一時帰国中、仕事が一段落したタイミングで、広島に住む姪(姉の二女)の新居を訪ねました。

姪は音楽大学を卒業後、広島市内の学校で音楽教諭として働いています。会社員の夫と3歳の娘と、これまでは賃貸住宅で3人暮らしをしていました。子どもを庭のある一軒家で育てたい。けれど、共働きでフルタイムの給与が二人分あっても、新築一戸建てには手が届かない。その結果、選んだのはリノベーション済みの3LDK中古住宅。購入後も、自分たちの暮らしに合わせて改修を重ねています。

家は傾斜地に建つ2階建てで、2階に玄関があります。2階はオープンプランのダイニングキッチンとリビング。階段を降りた1階にはベッドルームが3部屋あり、南側一面が庭になっています。どちらの階からも、大きな窓越しに広島の街が見渡せます。もともとは仏壇が置かれていたという和室の壁を取り払い、リビングを広くした空間には、実家で使われないままになっていたグランドピアノが自然に収まっています。ショパンやラフマニノフではなく、子どもを膝にのせて「ジングルベル」を弾き語りする姿が、とても楽しそうでした。

これから庭をどう使っていくか、どんな植物を植えたらいいか。そんな話をしながら、新しい暮らしへの期待がふくらんでいくのを感じました。

イギリスでの生活が長い私にとって、「家を買う」とは、誰かが住んできた既存住宅を購入することを意味します。この感覚を日本で話すと、以前は驚かれることが少なくありませんでした。

日本では新築住宅の人気が根強い一方、イギリスでは新しい建物よりも、歴史や物語のある建物が好まれる傾向があります。

最近の日本で中古住宅を選ぶ人が増えている背景には、「古いものが好きだから」という価値観の変化よりも、「価格的に現実的だから」という理由が大きいようです。それでも、日本の長年の課題であるスクラップ・アンド・ビルドの風潮に疑問を抱いてきた立場からすると、これは歓迎すべき変化です。高齢化、少子化、人口減少が進み、空き家が増え続けるなかで、既存の建築ストックを活かさない理由はありません。

日本の住宅政策は、長らく「新築を供給し続けること」を前提に組み立てられてきました。新築を促し、短いスパンで建て替えることで経済を回すモデルです。その結果、住宅は社会的なストックではなく、短期間で価値が下がる消費財として扱われ、空き家の増加や地域コミュニティの希薄化を招いてきました。既存住宅を適切に評価し、修繕や改修を前提に住み継ぐ仕組みを整えなければ、住宅ストックは「負債」として地域に積み重なっていくだけです。

人口減少が進むなかで、限りある資源を使い捨てる住宅のあり方は、もはや持続可能とは言えません。限りある資源の無駄を抑え、建設に伴う環境負荷を減らすことは、気候変動対策としても重要です。

そして何より、経済的に厳しい状況に置かれがちな若い世代や子育て世代にとって、「新築でなければならない」という前提は、大きな負担になっています。

住宅は本来、世代を超えて使われる社会資本であるはず。新築か中古かという二択ではなく、「既にあるものをどう活かし、どう住み継いでいくか」という視点こそが、住宅政策、都市計画、そして持続可能なまちづくりを考える上で、ますます重要になっています。住まいを「新しく建て続けるもの」から、「育て、引き継いでいく社会的資産」へ。成熟社会となった日本はそんな転換点を迎えているのではないでしょうか。

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