ロイヤルミントに計画される中国「スーパー大使館」

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夏の終わりのロンドン。まだ観光客が多く訪れるロンドン塔のすぐそばに、かつて王立造幣局があった「ロイヤルミント・コート」があります。ここに中国政府が「ヨーロッパ最大級の大使館」を建設する計画が進められています。以前にもこの件について書きましたが、2年が経った今も計画は停滞したまま。現地を訪れても、高い塀と鉄格子のフェンスの向こうに、古い建物がわずかにのぞくのみでした。

ロイヤルミントとは

ロイヤルミント・コートは、ロンドン塔の正面に位置する歴史的な敷地で、700年以上にわたりイングランドの硬貨鋳造を担ってきた場所です。造幣局の機能はすでにウェールズへ移転しましたが、1809年にジョンソン・スマークが設計した建物は、今も「歴史的建造物(Listed Building)」として保存されています。

この約2万平方メートルの敷地を中国政府が2018年に取得。新たな大使館を建設し、完成すれば「欧州最大規模の中国大使館」となる見込みです。ロンドンの中心にそびえる象徴的な存在となることは間違いありません。

都市計画の申請と却下

イギリスでは、開発許可(プランニング・パーミッション)は地元自治体が審査・決定します。本件も2022年にタワーハムレット区議会で審査が行われ、住民意見や環境影響が精査されました。専門的には条件付きで許可が推奨されましたが、最終的に区議会は却下を決定。

通常であれば不服申し立てが可能で、国家的重要案件では中央政府が判断します。この案件も外交・安全保障の観点からイギリス政府に移管され、結論は今秋(10月下旬)に出される見通しです。

透明性・安全保障・人権をめぐる懸念

計画をめぐっては、提出資料の一部が黒塗りとなっている点を政府が問題視しています。中国側は「安全保障上の理由」と説明しますが、国際的に報告されているサイバー攻撃や情報窃取の事例もあり、英国社会では透明性や安全保障への懸念が強まっています。特に敷地内にある地下施設が、通信拠点や情報収集に使われる可能性を指摘する声もあります。

さらに、中国による新疆ウイグル自治区での人権侵害や香港での弾圧に反発する運動がイギリス国内で続いています。香港からの移住者や人権団体は大規模な反対デモを行い、「監視社会化」や「中国政府の影響力拡大」に警鐘を鳴らしています。

今後の行方

ロイヤルミントの中国大使館計画は、単なる都市計画問題を超え、英国の安全保障、外交バランス、人権・透明性といった複数の問題が絡み合う案件です。

イギリス政府の判断は、英中関係だけでなく国際社会へのメッセージとなり、都市計画のあり方そのものにも影響を与える可能性があります。今後の動向から目が離せません。

正直なところ、この場所を訪れるたびに、高い塀に囲まれて閉ざされた光景を見るのはとても残念に感じます。ロンドン塔の目の前という歴史的で特別な立地だからこそ、本来であれば誰もが足を運び、憩える空間になってほしいと思うのです。

せめて当初の計画通り、正面の一部だけでもランドスケープやベンチを備えた公共スペースとして開放され、市民や旅行者が自由に過ごせる場所になればと、願っています。

 

参考資料

ロンドンの中国大使館が都市計画不許可で政治問題に

Met police ‘maintain concerns’ about China super-embassy plan

Ministers delay planning decision on Chinese ‘super-embassy’ in London

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