日本に10年住んでいたBBCのイギリス人記者(ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ)が日本を去るにあたって書いた記事をメルマガ読者に紹介したところ、いくつか感想をいただきました。記者として日本社会を観察し続けた外国人の目に日本がどう映るのかについての内容の概要と、読者の感想を紹介します。
家の減価償却率は車と同じ
記事の冒頭では、日本の家が40年後に資産価値がなくなることについて、「車と同じ」であると語っています。
新しく入居した途端に、マイホームの価値は購入時の値段から目減りする。
40年ローンを払い終わった時点で、資産価値はほぼゼロに等しい。
これについては、日本人にとっては、当たり前のことなので、ぴんとこない人もいるんじゃないかと思いました。でもイギリス人にとっては、家のような不動産がわずか40年で価値がゼロになるということが驚きなのです。家を買って数十年後に売ることで老後の資金を得るお国柄なので。財テクとしての個人的な損失はもちろん、使い捨ての消費文化を象徴する悪習として映っていることが文脈から感じ取られます。
古いものを維持・修理・改善して使い続けるイギリス人にとって、中古市場で購入した古い家の価値は10年後に売る時には値上がりしているのが普通です。だから、逆に、この記事を英語で読んだイギリス人は、日本での住宅価格のの値下がりはバブルが崩壊したからという理由だろうと理解しそうで、イギリス人向けにも、もう少し説明が必要だったかもと思いました。
少子高齢化と排外主義
この記者が房総半島を訪れた時のエピソード。彼はイングランド南東部出身だそうで、自分の故郷のように美しい自然に囲まれた村に魅了されます。東京から2時間弱とさほど遠くないところなのに、この美しい村が少子高齢化で消滅の危機にあることを知って驚きます。そこで、家族と移り住んでもいいと思ったのでしょう。都会がきらいなイギリス人が考えそうなことです。
墓を守るものがいなくなると嘆く高齢男性に「私が家族とここに移住することについてどう思うか」と言ったら、そこにいた老人たちは押し黙りました。「よそもの」に侵入されるよりは、消滅したほうがいいと考えているらしいということが、外人である彼にもよくわかったようです。
彼は、少子化なのに移民受け入れを拒絶する国がどうなるかというお手本を日本が示しているといいます。経済が衰退し、個人年収は韓国や台湾に追い越され、かつてアメリカ国民よりも裕福だった日本国民の収入はイギリス国民より少ないと。
公金の無駄使いと利益誘導型政治
記者は、日本が世界最大の公的債務国になった理由として非効率な官僚主義による無駄使いを象徴する事例をあげます。巨額の公金が意義の疑わしい活動に注ぎ込まれている例として紹介しているのが、ひとつ12万円もするマンホールの蓋。
さらに、高齢者が働き続けるために無駄な仕事が作られているとして、定年後の交通警官の働き口を作るための自動車免許証更新講習について紹介。
かといって、このように経済が衰退し続けている日本で、どうして国民は選挙で異を唱えないのかということも外国から見ると謎です。例えば、イギリスは2大政党制で、政府に問題があるとなると総選挙で10年ごとくらいに政府が入れ替わりますが、ほかの民主主義の国でも同様です。
そんな外国人から見ると異様な日本についての説明は「ポークバレル(pork-barrel)政治」。つまり、政治的理由で特定の地域や人々に利益を誘導する現象が全国的に蔓延しているため。
保守自民党が地方を中心に強力な支持基盤を持つ理由について、ある地方の住民へのインタビューを紹介しています。コンクリートでできていると言われる自民党の支持基盤の典型である町で、住民は「地元にトンネルが通った、自民党はよくやっている」と夫婦声をそろえて語っていました。
過去にとらわれる内向きの国
このような事象が続いているのは、日本では旧来のヒエラルキーが変化を受け付けず、いつまでたっても過去にこだわり続けているからだと記者は悟ります。
通常だと、若者はリベラルで開放的なので、世代交代が進むにつれて変わっていくものですが、日本ではそれも疑わしいというのが彼の感想。日本の若者は以前に比べ、結婚したり子供を持つ可能性が少ないだけでなく、外国語が話せたり、海外留学したりする割合も減っています。ジェンダーギャップも甚だしく、日本の経営者に占める女性の割合はわずか13%、女性の国会議員は10%に満たないのです。
彼が10年間住んでわかってきたのは「日本は変わらない」という事実。AI開発が進み、高齢労働者はロボットに取って代わられ、田舎は野生の野原に逆戻りして、日本はゆっくりと朽ちていくのではないか。
もし日本が新たに繁栄するとしたら、変化が不可欠であり、記者は頭ではそれが必要なのだと理解しています。かといって、そうなると日本を日本たるものにしているものを失うことになるのではないかと危惧し、アンビヴァレントな気持ちでもいるようです。
公金の無駄遣い、腐敗政治、排外主義、保守性について辛らつに批判するように見えて、実は、彼が日本に多大なる愛着を持っているということがわかります。愛情がないとここまでの関心は生まれないし、だからこそもっと良くなってほしいと思うものだから、耳に痛い意見も表明せざるを得ません。私も、外から日本を見る日本人として、似たような思いを抱くことが多いので、その気持ちがよくわかります。