コロナのために日本に帰国できなくなっていましたが、9月にようやく2週間だけ帰国しました。3年ぶりの日本の印象は「安い」ということ。そんな日本を満喫中にイギリスから新首相就任、そしてエリザベス女王死去というニュースが入ってきました。それに関してイギリスの環境政策はこれからどうなっていくのかということを考えてみました。
久しぶりの日本は「安い」
日本入国には出発前72時間以内のコロナ検査陰性証明が必要です。ぎりぎりまで確実に入国できるかどうかがわからないため、今回はいつものように仕事や面会などの予定は立てず、実家のある山口県で家族とのんびりしていました。海と山と田んぼのほかには特に何もない田舎なので、散歩したり、久しぶりに会う家族とゆっくり。
コロナ前は毎年のように、多い時は1年に3度くらいは帰っていた日本も今回は3年ぶり。しょっちゅう帰っていると気が付かないことでも、数年のギャップがあると「あれっ」と驚くことがあります。
たとえば、山口県の田舎のチラシで見たマクドナルドの求人広告の時給が890円と聞いて、日本は安くなったなと思います。息子がこの夏、初めてのアルバイトをイギリスのマクドナルドでしたのですが、地方町で未経験の学生でも時給は約1600円でした。
そういえば、円安の影響もあり、外食をしても買物をしても、日本では何もかも安く感じます。イギリスから日本に遊びに来ている私たちにとっては朗報ですが、安月給で働き、輸入品の値段が高くなるばかりで、日本に住んで働く人にとってはうれしいことではないでしょう。
とはいえ、実家がある田舎にいて感じるのは、特に贅沢をしなくても幸せな暮らしはできるのではということ。日本食に飢えている私など、日本のおいしいお豆腐やお魚を食べられるだけで幸せです。外国から輸入されたブドウは高いけど、今の季節しか食べられない好物の20世紀梨は安くておいしく、久しぶりに食べられて感激。
都会のように刺激がないけれど、その「刺激」を享受するためにはお金がかかることが多い。自分でおいしいものを作って食べて、朝晩の涼しい時間に散歩して、ご近所さんや知り合いとおしゃべりして、ついでに「畑で採れたから」というトマトやなす、キュウリや白ゴーヤなどをいただいて、極楽、極楽。
田舎は車社会になりがちだけど、私たちは車がないので自転車で買物や外食に出かけています。幸いにも鉄道駅は近いので、行こうと思えば電車でどこへでも行けるため、来週は新幹線で母と広島に住む姪に会いに行くつもりです。
イギリスからのニュース
さて、そんなこんなの滞在中、イギリスからはまずボリス・ジョンソンの後任としてリズ・トラスが新首相に選ばれたというニュース。これは予測されていたので特に驚きはしなかったのですが、その新首相がスコットランドのバルモラル城に謁見に行った2日後にエリザベス女王が死亡という大ニュース。
ご高齢でもあるので、誰もがそろそろではと思ってはいたのは確かです。でも、たった2日前まで新首相に会って任命するという公務の直後だったので、驚いたのです。思えば、普通の高齢者ならベッドで横たわっているところだろうに、最後の最後まできれいにお化粧して元気そうに公の場で公務をこなしていたということなのですから。
英国の王室制度については特に関心がなかったり、なくてもいいと思っていたり、廃止すべきだという人もいるとはいえ、そんな人たちでもエリザベス女王だけは個人的に尊敬しているというイギリス人は多いようです。
なにしろ、ほとんどのイギリス人にとって、自分が生まれてからずっと女王様が変わらなかったわけだから、そうでなくなるということだけでも日常が変わってしまうということ。国歌の「God bless the Queen」を「God bless the King」と歌わなければならなくなるのに戸惑う人だって多いでしょう。
もちろん即位が長かっただけではありません。
エリザベス女王は即位の前、まだ20歳位の時のスピーチで「私は人生を英国民のために捧げます、それが短かったとしても、長かったとしても。」と言ったことがありますが、その言葉通りに、70年間、毎日のように数多くの公務をこなし、国をまとめる存在となっていました。
そのような彼女の姿勢こそをイギリス国民は(王室制度そのものの支持不支持は別として)尊敬していたのでしょう。イギリス滞在が30年以上になる私としては、英国の歴史の一幕の瞬間に国内にいなかったということはちょっと残念でもあります。
この後はチャールズが国王となるわけですが、国民にとってはエリザベス女王ほどの尊敬や愛着の念をもつ存在ではないだけに、イギリス王室はこれから盤石とはいえない時期を迎えるのかもしれません。これまでも王室スキャンダルは後を絶たず、女王様のおかげで何とかこれまでもっていたと言ってもいいからです。
イギリスの環境政策はどうなる?
最後に、新首相と新国王に変わることによって、イギリスの環境政策がどうなるかということについて一言。
前首相ボリス・ジョンソンがやったことで、賞賛されることはほとんどないとというのが、EU残留派でもある私の正直な意見です。その中で、ただ一つまともにやったことが脱炭素や自転車利用推進などの環境政策だといえます。去年に延期されたCOP26の主催国であったということもその政策を後押ししました。
けれども、そのCOP26も終わった今、新首相のリズ・トラスはあまりその方面には力を入れなさそうな雰囲気です。エネルギー不足で価格高騰という問題もあるし、経済問題やエネルギー安全保障のためには、脱炭素政策に待ったをかけてしまうのではないかという懸念が消えません。
グリーン・キングの登場か
どうも雲行きが怪しいと思っていたところにチャールズ国王の誕生。
エリザベス女王は即位70年の間、政治的な活動をしたり、自らの意見を言うことを巧妙に避けてきました。そうすることで、さまざまな政治的立場や意見が異なるイギリス国民を一つにまとめようとして来たと言えます。
そのエリザベス女王が25歳で即位したのに比べ、73歳のチャールズは皇太子時代が長かったこともあり、その間、かなり積極的に自分の意見を述べてきたところがあります。最近はかなり丸くなった印象ですが。
皇太子時代は建築やアーバンデザイン、環境やオーガニック運動についてかなり積極的に声を上げていました。1990年代頃はBBCに出演したり、書籍を出版したりして、モダン建築を批判し、歴史的な景観の保護、保守的なスタイルの建築、アーバンデザインを推すなどして、当時の建築家と火花を散らしていたものです。
その後はどちらかというと環境運動に傾倒し、自らが所有するファームで作る有機農法ブランド品を生産開発したり、自然保護や気候変動問題解決にも力を入れてきました。有機食品ブランドのオーナーでもあるチャールズはマクドナルドなどファーストフードを批判したりしたこともあります。
これからは英国王として、気候変動問題や環境保護など、政治的にそれほどタブーでない分野での活動は積極的に続けていくのではないかと思います。これまでの不人気を挽回するためにも、「グリーン・キング」として君臨するのかも?