10月31日から英国スコットランドのグラスゴーでCOP26が開催されます。気候変動に関する取り組みについて世界各国からの代表が集まって話し合う国際会議、関わっている当事者には当たり前の事柄でも、知らない人にとっては「そもそもCOP26って何なの?」という疑問があるようなので、こちらではそういう人のために、なるべくわかりやすく紹介します。
COP 国連気候変動会議とは
「COP」は「Conference of the Parties(加盟国会議)」の略で、「気候変動枠組条約」の加盟国が気候変動を防ぐための仕組みについて話し合う国際会議です。
きっかけは1992年にブラジルのリオデジャネイロで行われた「地球サミット」。この時に「気候変動枠組条約」が作られ、世界各国が散らかを合わせて具体的な取り組みをしていこうということになりました。
「気候変動枠組条約」は地球温暖化防止のための目標を定めたもので、加盟国は温室効果ガスの排出量を抑えるための計画を作成、実行し、その経過を報告することになっています。
そこでCOPと呼ばれる国際会議を毎年行うことにより、各国が一堂に集まってそれぞれの経過を報告したり、次の取り組みについて議論しようということになりました。COPは1995年から毎年世界各地持ち回りで開催されてきました。2020年のCOP26は新型コロナウイルスの影響で1年延期されることになりましたが、今年は無事に開催されます。
これまで毎年行われてきたCOPの中でも、特に重要な取り決めがなされたのが1997年の「京都議定書」と2015年の「パリ協定」です。
COP3 京都議定書(1997年)
1997年に京都で行われたCOP3では、2020年までの温室効果ガスの削減目標を決める議定書が採択されました。これは気候変動の取り組みにおいてはじめて世界が交わした取り決めという意味で画期的なものです。
「京都議定書(Kyoto Protocol )」では、2008年から2012年までに先進国全体の温室効果ガス6種の排出量を1990年比で少なくとも5%削減することを目標として定めました。これは法的な拘束力があるものでしたが、対象は先進国だけに限られていました。温室効果ガス削減目標としてEUは8%、米国は7%、日本は6%を約束しました。
さらに、2013年から2020年までを「第2約束期間」とし、各国に排出削減目標が設定されましたが、途上国には削減義務を課していません。
これは、温暖化を引き起こしてきたのは主に先進国の活動が原因であり、その責任を負うだけでなく、経済的にも余裕がある先進国が率先して取り組むべきだという考え方にもとづいています。
後に米国が京都議定書を脱退するなどして、この議定書の危機が危ぶまれましたが、2005年に発効に至りました。
COP21 パリ協定(2015年)
京都議定書は2020年までの目標を定めたものですが、その後の2020年以降の目標を定めたのが2015年の「パリ協定(Paris Agreement)」です。
パリ協定では世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2度より充分に低く保ち、できれば1.5度に抑えることを目標にしています。
パリ協定では各国が温室効果ガス排出量削減目標を立て、5年ごとに目標を見直して、提出することが義務化されました。京都議定書の対象国は先進国だけでしたが、パリ協定では途上国も含めたすべての国を対象としています。
京都議定書に法的拘束力があったのに対し、パリ協定は目標を提出することは義務化されていますが、目標の達成については法的な拘束力や罰則を課しておらず、それぞれの国の自発的な努力に委ねています。
それでも、2大排出国の米国と中国を含むすべての国、約190か国が合意したことは大きな前進です。というのも、京都議定書は先進国だけが対象だったので、それ以外の国、例えば中国やインドなどがその期間にかなり排出量を増やしたことが問題になっていたからです。
パリ協定ではさらに、気候変動対策に取り組む途上国のために2020年までに年間1,000億ドルの資金を提供することを約束しました。
NDC 温室効果ガス排出削減目標
パリ協定にもとづいて、各国はNDC(Nationally Determined Contributions)と呼ばれる、各国の温暖化ガスの削減目標と実行計画を2020年末に提出するように要請されています。
この削減目標については、各国が一度提出した目標を定期的に見直し、さらに改善できないかを検討することが求められています。EUやイギリスなど、これまで提出していた従来の目標をCOP26までに引き上げた国もあれば、未だに計画を提出していない国もあります。
右の表は2021年2月末時点での各国の排出削減目標を示しています。(出典:日本経済新聞、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR268FX0W1A220C2000000/)
日本はこのあと2021年4月に、温暖化ガス排出量を13年度比で26%減らす目標を46%に引き上げることを公表し、一定の国際的評価を得ました。
さらにCOP26の直前、ぎりぎりになって新たな目標を発表したオーストラリア、ロシア、サウジアラビアなどもあります。
世界一の排出国である中国も最近になって排出削減の報告と計画を提出。それによると、30年目標を据え置いてはいますが、将来において目標を前倒しにする可能性も示唆しています。
ちなみに、各国の温室効果ガスの排出量は下記のとおりです。これを見ると中国の排出量が突出して多いのがわかりますが、人口当たりの排出量を見てみると米国が1位、ロシアが2位、日本が3位となっています。
英国グラスゴーCOP26の課題
10月31日から11月12日に英グラスゴーで開幕されるCOP26は、コロナの影響で開催が1年遅れ、久しぶりに世界各国の代表が集まります。
ここ1年半、どの国もコロナ対策で追われていて、気候変動問題解決については目覚ましい前進もないままという国もあります。
そんな中、2021年8月に発表されたIPCC(気候変動政府間パネル)のレポートは、気温上昇を1.5度に抑えるためには、今すぐ行動を起こさないと手遅れになるということを物語っていて、COP26でのさらなる前進が期待されます。
2021年COP26の目標
1.2050年までにネットゼロを達成し、気温1.5度上昇に抑える
2.気候変動からコミュニティや自然生態を守る
3.ネットゼロ達成のための資金を動員する
4.問題解決のために共に取り組む
COP26は新しく協定を作るためのものではありません。パリ協定で各国が合意した「2050年までにネットゼロを達成し気温1.5度上昇に抑える」という目標に実際に取り組むための各国の目標や計画を確認しあうものです。
そのために各国がそれぞれの目標を掲げていますが、それをさらに進めて、少しでも強化できないかというという交渉や、その目標達成のためにどのような具体的な行動をとるのかを各国代表が議論することになります、
COP26で議論すべき問題は多々ありますが、特に重要な課題に次のものがあります。
NDC温室効果ガス排出削減目標
パリ協定によって各国が提出したNDC目標では気温上昇を1.5度に抑えるには不十分なため、各国の計画を前倒しにしたり、目標を引き上げることが求められています。その要望に従って多くの国がNDCを見直して2030年を目標年としたものを再提出しています。
しかし、今年9月に国連が発表した報告書によると、各国の最新目標をもってしても、今世紀末までに世界の気温は2.7度上がるだろうと予測しています。
2.7度というのは目標の1.5度と大きなギャップがあり、さらなる努力が必要となってきます。
COP26では、各国の削減目標をさらに引き上げることができないか、そのためにはどうしたらいいかを議論することになるでしょう。
排出枠取引(Carbon Trading System)
「温室効果ガス排出枠取引」というのは、先進国が途上国で実施する脱炭素事業について排出削減分をクレジットとして購入し、自国で排出する温室効果ガスを相殺する「国際市場メカニズム」の仕組みです。
この排出枠取引についてはパリ協定6条に示されています。けれども、具体的にどのように実施するかの詳細ルールを決めなければ実現化できるものではありません。
また、このような取引によってカーボン・オフセットをしても本質的な対策にはならないという考えもあります。オフセットに頼ることが免罪符となり国内の削減行動が進まないために排出削減につながらないからです。
排出量の計算の仕方、透明性など、その実施方法にについてはさらに議論の必要があり、COP26でこの一連の課題についてどのように議論が進むのかが注目されます。
気候変動対策資金支援
途上国が気候変動対策に取り組むために、先進国が資金を供給するための取り組みも最重要課題です。
これまで気候変動に寄与してきた先進国の行動によって引き起こされる異常気象や環境破壊などによって被害を受ける途上国に対しての「気候正義」の観点から、この資金提供についてはパリ協定にも明記されています。
2009年に先進国は公的及び民間の資金合わせて年間1000億ドルを2020年までに供給すると約束しましたが、その目標は未だに達成されていません。
この、年間1000億ドルの資金目標を達成することはCOP26の3番目の目標として掲げられています。各国政府、さらに金融機関や民間企業、個人投資家ももっと貢献するように求められており、この交渉もCOP26で行われることになります。
石炭火力発電廃止
COP26では温室効果ガス排出の主な原因となる石炭火力発電を廃止して、再生可能エネルギーを推進することが大きな課題とされています。先進国では2030年までに、途上国でも2040年までに「脱石炭」を達成するべきだという考えです。
「脱石炭」目標は、フランスは22年、英国は24年、イタリアは25年、カナダは30年で、ドイツも38年だった目標を30年へ前倒しする見込みです。
イギリスやEU、米国はこれまで大きく頼ってきた石炭火力発電の割合を過去数十年で大幅に減らしてきました。
石炭火力発電の割合 1985~2020年https://t.co/Cwzlq7OJZ6 pic.twitter.com/uRCOG0fgwI
— グローバルリサーチ【都市計画・地方創生】Global Research (@GlobalResearc16) October 30, 2021
これについては、いまだに石炭火力に頼る日本や中国、インドなどの国は厳しい立場に立たされます。特にG7で石炭火力を廃止、または排出量を実質ゼロにする目標を定めていない唯一の国である日本への目は厳しいものがあります。
日本は今年10月に閣議決定されたエネルギー基本計画においても、2030年度の発電において石炭が全体の19%を占めるという見通しになっています。また、海外の新規石炭火力事業はやめるという発表はしたものの、バングラデシュやインドネシアでの既存の石炭火力発電事業を継続しています。
これら国内外での石炭火力事業について、日本は他の先進国や関係団体からの批判は免れないでしょう。
まとめ
今回のCOP26には最大の排出国・中国の習近平国家主席や、ロシアのプーチン大統領は対面で出席しない見通しですが、バイデン大統領の出席は明るいニュースです。トランプ前政権が離脱したパリ協定に復帰した米国がようやく気候変動の国際的な議論のテーブルにつくということで、その手腕が問われることになります。
COP26の日程は日本の衆議院選挙の直後となりますが、岸田首相が出席予定ということで、新首相の意気込みが感じられます。石炭火力事業やNDCについてなど、批判を受けたりさらなる努力を迫られることは必至ですが、それによって改めて国際的なプレッシャーを感じて覚悟を決めていただけるのではないかと思います。
一般国民の「コロナで気候変動どころではない」とか、グレタをはじめとする環境運動家の「口先ばかりで行動が伴わない」とか、悲観的な意見も多いのですが、それでも何もしないというオプションはもう私たちには残されてはいません。
酷暑や洪水、山火事、農作物被害、サンゴ礁など生態系の破壊、それによる経済損失や貧困、人間が住めなくなる土地の拡大、資源や食料をめぐっての紛争、大量移民、ひいては動植物や人間の死に至るまで、気候変動の被害は確実に広がっていきます。
2021年のIPCCレポートは「人間の活動が地球を温暖化させていることは疑いの余地がない」と断定し「我々は危機的な状況にある」と警鐘を鳴らしました。けれども「各国が力を合わせれば気温上昇を1.5度に抑えることは不可能ではない」と希望のメッセージをも送っています。
COP26でその目標を達成するための取り組みが少しでも前進することを願います。そして、その成果についてはまた後日こちらで報告します。