7月15日に欧州大陸西部を襲った集中豪雨の影響であちこちで洪水被害がありました。ニュースでご覧になった方もいるのでは?
ドイツなどで洪水被害
ドイツ西部、ベルギー、ルクセンブルク、オランダなど広域で被害が起き、死者は少なくとも150人となっています。
いまだに行方不明の人が多いことから、犠牲者の数はさらに増えそうです。堤防が決壊しそうになったことで避難指示が出たり、町が完全に水に浸かった地域もあり、家に戻れないままになっている住民もたくさんいます。
石やレンガでできた頑丈に見える建物が倒壊したり、車や塀などが水に流される映像も報道されていました。そのニュースでは、80歳の住民が「こんな大雨は生まれて初めて」と言っていました。
異常気象と気候変動
ドイツのラシェット首相は「100年ぶりの気象災害」だと言い、シュルツエ環境相は「気候変動によって起こった被害だ。地球温暖化がこのまま進めばこのような惨事が頻繁に起こるようになる」と指摘しています。シュタインマイヤー大統領も「このようなことが再び起こらないように、気候変動との戦いに取り組まなければ」と語っていました。
今回の洪水のような個別の気象事象が気候変動によって起きたのかどうかを直接関連づけることはできないにせよ、専門家は気候変動によって異常気象が頻繁に起きやすくなっていて、温暖化が豪雨を引き起こしやすくしていると分析しています。
おりしもドイツでは9月に総選挙を迎えており、環境政策を目玉政策とする緑の党が次期政権を狙っていることから、現政権も環境問題については敏感になっている節があります。ヨーロッパ諸国では気候変動に関して国民の関心が高く、環境政策によって投票行動が大きく左右されるのです。
日本での関心
日本では気候変動についての関心がヨーロッパほどではなく、あまり政治の論点にもならないようです。ある程度の年齢の人にとっては気候変動問題は自分の世代には関係ないということなのかもしれませんが、若い人はそうもいってられません。グレタ・トゥーンベリのような若き活動家が日本にも表れつつあります。
今年の6月は日頃は涼しいカナダや米国北西部で熱波により、気温が49度を超えるという異常気象を記録しました。日頃は冷涼な北ヨーロッパ、シベリアでも記録的な暑さが起こったり、世界各地で洪水、熱波、干ばつ、嵐や台風、季節外れの雪や霜などのニュースを見ない日がないほどです。
日本でもここ何年も平均気温が上がり続けていて、夏には記録的な暑さに悩まされ、台風や集中豪雨なども起こります。
以前はたまに世界のあちこちでぽつぽつと起こっていただけの異常気象が最近は広い地域に広がっていて、気象が極端になっているようです。
温暖化のペースがはやまっている
専門家の中には「地球の気温は2100年までに3度の上昇が予想される。温暖化のペースは海上に比べて陸上ではやいので、生活する人が接する気温は2070年までに約7.5度上がることになるだろう」という人もいます。今まで通りの生活や生産・消費を続けていれば、食糧生産や水資源の確保に重大な影響を及ぼすことになるというのです。
米科学アカデミーは気温が1度上がるごとに10億人が同じ場所に住めなくなり、極端な猛暑に順応するしかなくなると予測しています。空調などの技術が使えない場合、住民は移住を余儀なくされる人々が出てくることも予想され、移住による民族衝突や紛争が発生する可能性も出てきます。
そして、この報告書は「でも、希望はある」と解決策を示唆します。世界の二酸化炭素排出量を今すぐ大幅に削減すればそのような酷暑にさらされる人の数を半分にできるというのです。
EUのFit for 55
EUは先週、2050年までにカーボンニュートラルを達成するための「Fit for 55 」計画を発表しました。二酸化炭素排出量と除去量を差し引きゼロにするために、2030年までに排出レベルを1990年の水準から55%引き下げるというものです。
具体的には下記の施策を盛り込んでいます。
・航空燃料へ課税
・2035年までにガソリン・ディーゼル車の新規販売を禁止
・再生可能エネルギーの拡大
・エネルギー効率の悪い建築物の改修
イギリスの取り組み
ガソリン・ディーゼル車の新規販売についてはイギリスも2040年までに禁止するという目標を10年早めて2030年としたばかりです。
この革新的な目標を達成するために、英サンダーランドにある日産工場でEVバッテリーの生産拡大を図るという発表をしています。
このように欧米諸国で気候変動問題解決への政策が次々に打ち出されるのは、国民の関心も高いからです。
政権を握っている与党だけではなく、野党も環境政策をマニフェストの核にすえて国民の関心を引こうとしています。
少し前のメルマガで、都市計画法改正案が地方選挙の論点となったという話をしましたが、気候変動問題についてはどの党も票が取れることがわかっているので、熱を入れています。
COP26開催
さて、去年コロナで延期となったCOP26(国連の気候変動会議)が今年の11月に英国スコットランドのグラスゴーでが開かれます。環境政策に消極的だったトランプが消え、バイデン政権となった米国がパリ協定に復帰したことで、より前向きな国際間の取り決めができるのではないかと期待されています。
主催国となるイギリスは、石炭火力発電所を全廃する目標を1年前倒しにして2024年9月末までにするという発表をしています。イギリスでは再生可能エネルギーの発電量が増え、2012年に4割を占めていた石炭火力が今では1.8%にまで減っているのです。
とはいえ、ここに来てデルタ変異株などの流行でコロナ感染状況もまた心配になってきています。世界中の国から代表者が集まって対面で会議ができるのか、難しい状況となってきました。
まあ気候変動問題を議論する会議なのだから、グレタなどが説くように「飛び恥」を避けて、オンラインで開催するのが筋と言えるかもしれません。
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