中心市街地活性化のためのBID(Business Improvement District)

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Liverpool BID

日本でも、特に地方都市に「シャッター街」とか「シャッター通り」と呼ばれる現象が起きることをご存知の方も多いでしょう。車社会になり郊外に自家用車で行く大型商業施設などができると、以前からあった街中の中心地に人が集まらなくなり空き店舗が増えて衰退していく現象です。欧米でも同様なことが起きていて、この問題を解決するためにBID(Business Improvement District)という試みがなされてきました。

BIDとは

BIDとはBusiness Improvement Districtの略で、市街地活性化を目的として法律で定められた特別区制度です。もともとのアイディアは1970年代にカナダのトロントで生まれ、1980年代からこれまで、アメリカ、イギリス、ドイツなどの欧米諸国で導入されてきました。現在多少形を変えたものも含めてその制度は世界中に広まり、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなどにも普及してきています。

BID制度は各国で多少異なりますが、一般的に共通している定義は次の通りです。

  • 多くの場合、都市中心部に位置する区画された地域である。
  • 財源は公的なものではなく、地域内の不動産所有者や事業者が支払う受益者負担金によってまかなわれる。
  • その事業内容は地域内の環境維持管理、歩道や公園などオープンスペースの維持改善、治安維持、地域開発、イベント計画管理、外部へのマーケテイングなど。

すなはち、政府や地方自治体がすべき基本的な業務ではなく、付加的なものとしてあり、基本原則は「受益者負担」です。これには、政府や地方自治体の緊縮財政や自由経済主義の影響で公的な補助が減少し、危機感を抱いた地域の地権者たちが国や地方自治体に頼ることなく、自らが協力して自分たちの街を活性化しようと立ち上がったという背景があります。

イギリスBID制度

ここではイギリスのBID制度についてご紹介します。

背景

イギリスでは、1970年代からインナー・シティー問題と呼ばれる、都市中心部の荒廃が問題となっていて、その課題に取り組むために様々な試みがなされてきました。労働者の失業、貧困、教育や健康レベルの低下、環境破壊、アルコール中毒や薬物乱用、はてには犯罪から暴動に至る結果となっていたのです。インナー・シティー問題が起きる地域には少数民族、失業者、低所得者など社会的弱者が多かったため、はじめは社会福祉分野に重点が置かれ、その後は経済開発に基づいた政策が導入されました。

しかし、公的機関からただ補助金を与えるだけの政策ではあまり効果がないということが分かり、市街地ではタウンセンターマネジメント(TCM)と呼ばれる、地域の事業者と協力し合って街の活性化を目指す試みが整備されたのです。いわゆるインナー・シティー問題には悩まされていなかった街でも、郊外にできた大型商業施設などに客を奪われ昔からの商店街が衰退しシャッター街となっていくという危機感が大きくなっていき、この試みに拍車をかけました。

タウンセンターマネジメントはイギリス中400以上の街で導入され、これによって改善された街も出てきました。しかし、この制度の問題点もだんだんと明るみになってきました。財源としては多くを公的な補助金と自主的な寄付に頼っていたため、収入が安定しなかったことや、一部の家主や事業者ばかりに負担が集中してフリーライダーと呼ばれる受益者が出てきたため、不公平感が増してきたのです。

このため、地域の受益者全員が公平に資金を負担するBID制度に関心が集まり、政府は2001年にこの制度を導入することに決めました。

BID法の導入

イギリスでは2003年と2004年にBID法が制定され、法律の枠組みが準備されました。

最初にBIDが指定されたのはイングランド、サリー州にあるキングストンという町のKingston Firstです。その後、イングランドだけでなくウェールズ、スコットランド、北アイルランドでもBIDは導入され、イギリス全国にこの制度は広まっています。

2017年時点でイギリス全国に283のBID地域があります。ほとんどのBIDはタウンセンターに位置していますが、ほかの地域に作られている場合もあります。BID制度はそれぞれの自治に任せる領域が多く、かなりフレキシビリティがあるため、その規模や財政、事業内容などはそれぞれかなり異なっています。

BIDの期間は最長5年までとされ、ほとんどのBIDが5年単位で指定されています。5年の満期後にBID継続を望む場合は、再び投票を行って継続するかどうかを決めます。

BID指定プロセス

BIDをつくるためには、地元の対象事業者全員で投票を行い、過半数の賛成を得ることが必要になります。そのための手続きは下記のとおりです。

  1. BID提案者が地域の関係者と協議の上、BID プランを作成(内容はBIDエリア、納税義務者、BID機関の枠組み、事業内容など)
  2. BID提案者とBIDエリアが位置する地方自治体が協議し、同意を得る
  3. BID投票について地方自治体の許可を得たのち、投票が行われる
  4. BID計画地域の事業税納税義務がある対象者の投票総数のうち過半数以上、または不動産評価額で過半数以上の賛成票が得られたらBID指定が決定する
  5. BIDを実施する機関が設立され、地方自治体から還元されるBID税(後述)などを資金にして活動する。

BID財政

イギリスでは事業者(不動産所有所ではなくテナント)はBusiness Rateと呼ばれる事業税を地方自治体に支払う義務があります。BID指定地域では、これに数%上乗せした金額をBID税(BID Levy)として地方自治体が徴収します。地方自治体は事業税を徴収した後に、BID税分をBID機関に還元する仕組みになっています。

BID税はそれぞれのBIDエリアで決定されるため、その率はまちまちです。一番低いところで0.25%、高いところで5%となっていて、通常は1~1.5%くらいになります。

BID税は一定の事業税を支払う事業者に支払い義務があり、その最低レベルもそれぞれのBIDで決められます。平均すると、事業税を7500ポンド以上支払っている事業者に支払い義務があります。チャリティー団体などにBID税の割引措置を導入しているところもあります。

BID税以外の収入源としては不動産所有者ほかの寄付があります。またBID活動のために、金銭としてではないサポートを提供している事業者も多く、スタッフ労働、オフィススペース無料貸与、マーケティングやデザイン面でのサポートなども無視できません。BID税を支払う必要がない住民や団体、地方自治体も協力し合い、関係者が共同で自分たちの町の改善に取り組む姿勢がみてとれます。

BIDの規模は一定でなく様々なものがあり、その財政規模も一様ではありません。小さいところではBID税収入が年間22,000ポンドですが、大きいところでは3,800,000ポンドとなっています。BID 収入が年間100万ポンドを超えるところは15地域あり、その約半分はロンドンに位置しています。

BID実行機関

BID事業をどうやって行うかは、それぞれの地域によって決められます。通常はBID税を支払う事業者の代表者が運営委員会を作り、BID投票において関係者と協議の上に作成されたBIDビジネス・プランを基に実際の事業をすすめていきます。とはいえ、代表者は自分の事業があるため、実際の日常業務を行うBIDマネジャーなどのスタッフを雇用するのが普通です。

それぞれのBIDが策定したビジネス・プランに基づき、地方自治体そのほか地元の警察や関係機関、住民と話し合い、協力を得ながら様々な事業を推進していくことになります。

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